古本日記

家から徒歩一分の古本屋に「 L 版コミックスオール105円! 」というデフレ時代ここに極まれりといった風情ののぼりがたなびいていたので、飛んで火に入ったんですよ。虫と蔑まれている僕が。
すいません悲しい慣用句はどうでもよくて、 L 版105円というのは相当お得じゃないですか。もちろん送料かからないし。だからいつか揃えようと思って踏ん切りがつかないでいた松本大洋のコミックスをルカーと叫んでドカドカ カゴに入れてレジに持って行ったんですね。
鉄コン筋クリート (3) (Big spirits comics special)

買い物したコミック

合計9冊、しめて945円。すごい。感動。思わず笑みもこぼれるってなもんですよ。セミロングの黒い髪にえくぼがちょっと目立つ可愛らしい店員さんもそんな僕の感情を察してくれているのか、会計の間何度か目が合ったのですけど、そのたびににこやかな笑顔で接客をなさってくださいました。すごい。感動。
思わず「釣りはいらねえよ」なんて言い放つシミュレーションまでし出すやんちゃな左脳君をたしなめつつ、スキップの速度で家に帰り、クーラーの電源を ON にし、クッションにこしかけ、おっとその前に T シャツから部屋着に……と思い首もとに手をかけた瞬間、僕は全てを悟りました。

今日着ていた T シャツ
今日着ていた『鉄コン筋クリート』の T シャツ

ハリウッドの大作シリーズの公開初日にコスプレをして列を作る類の人間を誰よりも笑いものにしてきた僕の、生涯最悪の大失態。お仕事スマイルでも、ましてや僕個人への好意に満ちた笑顔でもなく、嘲……笑。あれは嘲笑だった。
……。

「さっきのニヤニヤしてた気持ち悪い客さー、松本大洋の本ばっかりどっさり持ってきてさー、しかも T シャツクロとシロだよ? まじありえないんですけどー。え? いい歳してカイカイマンが脳みそん中入ってんじゃないの? ぷぷーあんたちょっとうまいこと言うじゃんー。あーそれにしても笑ったわーなんかこっちのことチラチラ見てくるしさー。あ、明日も『ピンポン』買いに来るんじゃん? ぷぷぷー」

……。
もうあの本屋行けない。